『冬期限定ボンボンショコラ事件』は、〈小市民〉シリーズの総決算。
春から始まったこのシリーズもついに冬を迎えてしまいました。
高校生の小鳩くんと小佐内さんが、普通の生活を目指しつつ巻き込まれる謎や事件を描くこのシリーズ。
今回の物語では、過去の事件の回想をとおして、小市民を目指すきっかけが明らかになります。
このシリーズが始まったころはまだまだ新人だった作者の米澤先生ですが、今や直木賞をはじめいくつもの文学賞を受賞して超売れっ子作家になられています。
その為かどうか、なかなか新刊が発売されず、秋からはなんと15年を経ての出版となりました。(その間に番外編的短編集が出版されていますが)
大好きなシリーズの久々の新作ということで冷静なレビューとはいかないかと思いますが、感想をまとめたいと思います。
あらすじ
小市民を目指す高校3年生の小鳩常悟朗は、ある日ひき逃げ事故に遭い病院に搬送される。
大学受験も断念しなければならないほどの大けがを負い、不自由な身体で年の瀬を病院で迎えることになる。
病室で目を覚ました小鳩は、同じく小市民を目指す小佐内さんからの「犯人を許さない」というメッセージを受け取る。
ひき逃げ事故は彼らが中学3年生の時に同級生が被害にあった事件と似通っていた。
見舞いに来た友人から聞いた、その時の被害者である日坂祥太郎が自殺したとの噂に、小鳩を激しく動揺する。
噂を信じられない小鳩は過去の事件を思い出しながら、現在の謎に取り組んでいくことに・・・。
感想<ネタバレ注意!>
米澤穂信さんの小市民シリーズの最新刊『冬期限定ボンボンショコラ事件』を読み終えた後での感想を書かせていただきます。
春、夏、秋、巴里ときて、いよいよ冬がやってきてしまいました。
多分にネタバレを含みますので、これから読む予定の方はいったんブックマークに登録して、読んだ後でまた来ていただければ嬉しいです。
さて。
この時を待っていたいような、来なくて良かったような複雑な心境で読み始めました。
小鳩君と小佐内さんもついに高校三年生。
しかも12月となれば、受験勉強も佳境で、残り少ない高校生活をカウントダウンする余裕もない頃でしょうか。
やはり冬は別れの季節なのか。
いきなり小鳩君が事故に遭うことに驚き、かなりの重症で受験も間に合わないとの事態に、かつてない重苦しさが漂います。
そして明かされる、小市民を目指す切っ掛けとなった中学生時代負った大きな傷に関する事件の回想が始まると、そこからはノンストップで気付けば読み終えていました。
これまでとの毛色の違いには少し戸惑いました。
小市民シリーズといえば『日常の謎』という印象なのですが、今回はかなり非日常です。
なんせ主人公が大けがを負うひき逃げ事件。それも過去と現在の2つのひき逃げ事件が題材です。
中学時代の被害者であった同級生の自殺の噂も絡めばもう『日常』が出る幕はありません。
これまでの小市民シリーズは核となる非日常の事件がありながら、基本は日常の謎を扱う連作短編の構成でしたが、今回は完全に長編作品でした。
その分メインの事件はかなり深く描かれていて、その点は大満足なのですが、二人のいつものやり取りはかなり少なかったのが残念。
そんなこんなで事件は解決して、その過程や結末も読み応えばっちりなのですが、やはりシリーズのファンが語りたくなるのは解決後でしょう。
小佐内さんの京都への誘いはぐっとくるものがありました。
二人は傍目には恋人同士のようですが、本人たちの認識はそうではなく、あくまで小市民を目指すための互恵関係です。
夏でいったん関係を解消して、秋によりを戻す。
恋愛感情があるのかないのか、少なくとも認識はしていないようです。
小佐内さん曰く「わたしの次善」。
ベストではないけど、ベターではあるという関係。
そんな二人の関係を事故が深める。
失う恐怖にかられたときに大切さに気付くというのは、こう書いちゃうとベタでしかないのですが、読んでいる間は小佐内さんのそんな心境の変化など思いもよりませんでしたので、この展開には意外性がありました。
中学時代との対比で二人の成長と、4年かけてゆっくりと関係を深めてきた様子が見て取れて感動的でした。
今はどんな結論を出すかを想像して楽しんでいます。
読者としてはもちろん京都での大学生編を楽しみにしたいところですが、米澤先生の多忙さを考えれば、期待しすぎず、気長に待つしかないのでしょうね。
未収録の短編もありますので、まだまだ小市民シリーズは終わらないと思っています。
そっちはアニメ化(あるいはそのDVD化)のタイミングで発売されると期待して待っています。
もちろんアニメも楽しみで仕方がない。
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最後まで読んでいただきましてありがとうございました。
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