東野圭吾さんと言えば、電子書籍否定派の代表格の作家さんです。
人気作は数あれど、電子書籍になっているのはわずか7冊。それも特例で、コロナ禍の2020年に、外出の自粛が要請される中で、読書を届けるという目的で実現したもので、それ以降、新たに電子書籍化された作品はありません。
そんな東野圭吾さんの新作が、オーディオブックサービス、Audible(オーディブル)で発表されました。
しかも加賀恭一郎シリーズ!
東野圭吾さんは、書店文化を守りたいとの思いで電子書籍化を拒んでいるという噂ですが、オーディオブックという媒体ならば、ということでしょうか。音声作品ということを意識して書かれたとのことで、期待は膨らみます。
オーディブル側も力を入れていて、ナレーターは寺島しのぶさん、高橋克典さん、松坂桃李さん、逢田梨香子さん他、豪華な面々となっております。
他の多くの作品は、一人か二人くらいのナレーターさんが読まれているのが通例ですので、少し異なるテイストの作品と言えるでしょう。
あらすじ
夫の月命日に墓前で手を合わせていたところ、背後から強い衝撃を受けて命を落とし、魂となりその場を俯瞰していた。どうやら銃で撃たれたらしい。いったい誰に。なぜ。
魂となった被害者が、やってきた警視庁捜査一課の加賀警部と共鳴し、憑りつく形でその捜査を見守ることとなる。
被害者は女帝と言われた会社社長。冷酷な一面と、情に厚い一面を併せ持った人物と言われている。仕事上での恨みはあっただろうが、計画的に殺されるほどの殺意は見当たらない。
加賀は、部下の女性刑事新澤と共に事件の真相に迫っていく。
寺島しのぶ、高橋克典、松坂桃李など、豪華なキャストで語られる、ラジオドラマ的作品
被害者を演じるのが寺島しのぶさん。地の文も寺島さんが朗読している。
主人公の加賀を高橋克典さんが演じ、他にも松坂桃李さん、声優の逢田梨香子さん、新藤みなみさんが主要キャストを演じる。なんとも豪華な作品。
オーディブルで提供される小説作品は、一人のナレーターがすべてを朗読する物が多い。物語の語り部となる人物に合わせて複数のナレーターが用いられる作品もあるけれど、登場人物ごとにキャスティングされた作品を聴いたのは初めてでした。
通常は効果音もほぼなし、BGMもなし。この作品では、控えめではあるが、どちらもあった。まるでラジオドラマと言ったような印象で、朗読とは言えない。この作品でオーディブルを始めた方は、他の作品を聴くと違和感があるかもしれない。
私としても、朗読を期待して聴き始めたので最初は違和感がありましたが、ラジオドラマを聴いていた経験もあるのですぐに慣れました。
寺島しのぶさんの語りは素晴らしい。深みのある良い声です。
加賀を演じた高橋克典さんには、テレビやドラマでの阿部寛さんの印象が強いので、違和感を感じる方もいるでしょう。私も、阿部さんならこのセリフはこんな感じだったかな、と想像し、高橋さんが悪いわけじゃないのに、阿部さんだったらなぁと考えていました。
あとは……キャスティングで犯人の見当がついてしまうのはデメリットですかね……。
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ボリュームは短編小説くらい
オーディブルの再生時間は、2時間47分。
映画1本を超える長さですが、物語のボリュームとしてはテレビドラマ1話分ほど。短編小説くらいの感じですね。
オーディオブック化された長編小説は、10時間を超える作品がざらにあります。
オーディオブックでは、地の文(会話以外の、情景や心理描写など)の朗読があるため、物語の進行はどうしたって遅くなってしまう。その分、心理描写が丁寧に語られるのがオーディオブックの魅力だと思っています。
この物語の進行の遅さが考える時間をくれるので、自分の推理を組み立てながら聴くことができました。
感想:加賀恭一郎シリーズの魅力はあるものの、物足りなさも感じる
短編だから仕方がない面もありますが、タイトルから、『どちらかが彼女を殺した』『私が彼を殺した』『あなたが誰かを殺した』のような、技巧的な犯人当てミステリーを想像すると少し弱く感じる。
『誰かが私を殺した』というタイトルにするために、被害者である塔子が魂だけの存在になり、加賀の捜査を見ながら語らせる形式をとっています。
物語的には、被害者の想い、加害者との関係など、深みを与える要素にはなっているのですが、推理面ではとくに意味があるようには思えなかったのが残念です。
とはいえ、ミステリー作品としての仕掛けはさすがと唸るものでしたし、人情味もたっぷり。新キャラである新澤も魅力的で、もっと聴きたくなる作品でした。
なんせオーディブルオリジナル。これからもどんどん作品を発表して欲しいですね。
『誰かが私を殺した』の書籍化、文庫本化の予定は?
オーディブルオリジナル作品として書き下ろされた作品ですので、今のところこの作品を本で読むことはできません。確認できる限り、単行本や文庫化の予定もないようです。
この作品のボリュームは、短編小説1本分くらいしかありません。加賀恭一郎シリーズの、単行本未収録作品もないようですので、すぐに書籍化される可能性は低そうです。
東野圭吾さんは電子書籍にも否定的ですので、この作品が単独で電子書籍化される可能性もあまり高くはないでしょう。
今後オーディブルオリジナルの作品が続けば、それらを集めた単行本が出るかもしれません。当分先になりそうですが、気に入った作品は本でも読んでみたいので期待して待ちたいと思います。
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お勧め関連作品
どちらかが彼女を殺した/東野圭吾
究極の犯人当て小説。
とても挑戦的な作品で、軽い気持ちで読み始めた人を絶望に突き落とす。
犯人は最後まで明かされず、自分で推理するしかない。
容疑者は2人。でも、真相は簡単にはみつからない。
巻末のヒントが無ければ、自分では解けませんでした。
容疑者Xの献身/東野圭吾
加賀恭一郎シリーズと双璧をなす、ガリレオシリーズ。
直木賞を受賞作であり、東野圭吾さんの代表作。
小説も映画も大好きな作品です。
電子書籍化された数少ない東野圭吾作品のひとつ
最後まで読んでいただきましてありがとうございました。
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