『爆弾』読書記録~取り調べ室での鬼気迫る駆け引き

アイキャッチ画像『爆弾』駅のホームで立ち尽くす男性
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Audibleで聴いた呉勝浩さんの『爆弾』についての感想を書かせていただきます。

この作品は、「2023年版このミステリーがすごい」の国内編で1位にも選ばれた、ミステリー好きにお勧めの作品です。
警察署で取り調べを受けている連続爆破容疑者との緊迫した駆け引きが魅力で、心の中の爆弾に火をつけられるような心を揺さぶられる作品となっております。

感想の段落にはネタバレも含んでいます。
結末は避けていますが、かなり踏み込んだ内容もありますので、未読の方はご注意ください。

目次

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あらすじ

呉勝浩さんの『爆弾』は、東京で繰り広げられる連続爆破事件を扱ったスリリングなミステリー作品です。

物語は些細な傷害事件でスズキタゴサクという男が警察署に連行されることから始まる。
彼はただのさえない酔っ払い中年として扱われていましたが、取り調べ中に「十時に秋葉原で爆発がある」と予言し、その予言通りに秋葉原の廃ビルが爆発したことで様相は一変する。

記憶がない、霊感だとうそぶきながら、スズキはその後の爆発を予言し、警察を翻弄する。
情報を聞き出すため警視庁の清宮と類家がスズキと対峙し、スズキの提案する奇妙なゲームを通じて腹の探り合いが繰り広げられる。

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作者と作品について

呉勝浩さんは、1981年生まれの小説家で、2015年に『道徳の時間』で乱歩賞を受賞してデビューしました。
直木賞に幾度もノミネートされており、2022年に発売された『爆弾』も、第167回直木賞候補作となりました​​​​。
『爆弾』は『2023年度このミステリーがすごい』の国内編の1位にも選ばれています。

Audible版の再生時間が12時間51分という長編作品で、ナレーターは星祐樹さんと品田美穂さんが担当しています。
星さんの何人もの登場人物を演じ分ける力と、品田さんの凛とした語りがとても素晴らしいです。

感想(ネタバレあり)

知的な腹の探り合いは大好物です。
知能犯と名探偵の対峙に勝る快楽はありません。

物語の大半を占める、取調室でのスズキと刑事たちのやり取りがたまらない。
先の展開が読めず、読むのを(聴くのを)やめられなくなってしまいました。

さて、この物語はスズキタゴサクに翻弄される人々の物語だろうと思います。
読者も無関係でいられるとは限りません。

Audibleではナレーターの星さんの演技力が素晴らしく、気持ちの悪いスズキを演じながら、しっかりと惹き付けてくれます。
ねっとりしていて、本当に気持ち悪い。
なのに、もっと聴いていたくなる。

スズキの話術はとにかく自虐が多い。
自分を卑下し、クズだと罵り、それを自分で認めているからこそと開き直っている。

このあたりで「無敵の人」という単語が過る。
自分に価値が無い、なにも持っていない、だからこそ何でもできる。
その連想がスズキの不気味さの根源にあるような気がする。

しかしスズキの話はのらりくらりとしていながら時に鋭く、自分で言うような愚鈍な人物とは到底思えない。
大それたことをしでかす能力もあるように思える。
不気味さが募る。

読者からの共感を一切拒絶しているかのようなスズキのキャラクターは、自虐的でうっとしい、気持ち悪いと思いながらもしみ込んでくる。
その心理を理解できず、共感もできないのに、それでもスズキの考えを聴くうちに、スズキが自分の中に侵食してくるような気味の悪さを感じるようになる。

この浸食される感覚というのがこの作品の肝だと感じた。
導火線に火を付けられたイメージ。
その感覚があったからこそ、終盤に清宮が心の中で叫ぶ、「連れて行くな」という言葉に真実味を感じ、ハラハラさせられた。
類家が、等々力が、沙良がどんな決断を下すのかが計れなくなる。

誰もが心の中に爆弾を抱えている。
命の価値、尊厳、倫理観。
自分を形作っている良識は、それほど強固なものはないのかもしれない。

そんなことを考えさせられた作品でした。
面白かったです。

沙良パートのナレーションを担当された品田さんの凛とした声もすてきでした。
他の作品も聴いてみようと思えました。

好きなナレーターと出会ったときのAudibleは本当に良いものです。

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おすすめ関連作品

『爆弾』を気に入った方には、以下の作品もお勧めです。

スワン/呉 勝浩

こちらも呉勝浩さんの作品で、複雑な人間関係と緻密なプロットが特徴です。

羊たちの沈黙/トマス・ハリス

知的な犯罪者との対話といえば真っ先に思い浮かぶであろう作品。

作品の魅力が少しでも伝わったなら幸いです。
一度読まれた方も、ぜひAudibleを利用して、また違った感覚でこの緊迫のサスペンスを楽しんでみてください。

かつき

最後まで読んでいただきましてありがとうございました。

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